
江戸の告白/昌原光一 (モーニング KC)
発覚すれば死罪確定の重大な罪を犯した善良な男が
罪の意識に取り憑かれて正気を失って行くという、
サイコホラーの趣きさえ漂わせるダークな人間絵巻。
江戸の街に暮らす人々の喜怒哀楽を
主として題材にする著者の作品には、
温かみや優しさだけでなく、
酸いも甘いも噛み分けたような、
あるいは清濁合せ呑んだような
そんな懐の深さを感じさせる逸話が多く、
本作もその極致といったところでしょうか。
男の心が次第に壊れていくさまを筆頭に
登場人物たちのドロッとした暗黒心理描写を
的確な表情や仕草で見せる画力の高さとあいまって、
それはもう壮絶な出来映えです。
これが壮絶でなくて、何が壮絶か。
そしてこの壮絶は、読者であるわたし(やあなた)が
それぞれ日常で向き合う壮絶の投影でもあるのです。
そうやって展開する厳しい人間模様は、
この江戸時代に、とある人々の間でたまたま起きた
偶発的事件であるというだけでなく、
輪廻の果てまで繰り返される因縁なんですよ。
と、そういう含みまで持たせてしまうような
「因果はめぐる糸車」的スケールの大きさにも、
単なる時代劇漫画という杓子定規のカテゴライズを
遥かに凌駕する普遍性さえ感じてしまいます。
心躍るような物語では全然ないけれど、読み手としては、
ワクワクドキドキするより他にどうしようもないのです。